デジタルを活用したDHDモデルを推進し、四国地域の期待に応える。
株式会社伊予銀行
執行役員 システム部長 稲田 保実
愛媛県宇和島市生まれ。1987年、広島大学を卒業後、伊予銀行に入行。本店営業部を皮切りに、福山・東京・大分各支店に配属され、主に営業係として活躍する。2007年には事務管理部(その後事務統括部に改編)に異動。2014年、システム部副部長、2016年、システム部長に昇進。2020年、執行役員システム部長に就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
デジタル技術が、当行の業務を進化させる基盤となる。
伊予銀行は2015年から、デジタルをコアとするビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)を実行し、金融業務における構造改革を進めてきました。その根幹となっているのが、DHDモデルです。
DHDとは「デジタル・ヒューマン・デジタル」の略称です。お客さま視点に立ったデジタルなタッチポイントによって、お客さまと継続的かつシームレスにつながる仕組みを創り出します(D=デジタルタッチポイント)。
それを基に、お客さまからのお悩みやご相談に対し、ベストなタイミングで適切な情報を提供し、地元の事情を理解する当行ならではの、温かみがある提案を行います(H=ヒューマンコンサルティング)。
そして、諸手続きのペーパーレス化・処理時間短縮などの面でデジタルの強みを発揮し、店舗に来ていただかなくても、必要な手続き・処理が完了できる(D=デジタルオペレーション)というものです。
すなわち、個人・法人のお客さま一人ひとりのニーズに応える最適の商品・サービスを、オーダーメイドに近い形で提供することを目指したサービスモデルなのです。お客さまの、そして地域の課題を解決する地銀であり続けるためには、DHDモデルのさらなる深化・進化(しんか)が不可欠と考えています。
2022年10月には、経営管理機能の強化、グループガバナンスの高度化、そしてグループシナジーの極大化をにらみ、持株会社体制へと移行しました。これにより、事業領域の拡大や新たな領域への挑戦が始まるでしょう。
そのための基盤がデジタル技術です。現在、システム部は伊予銀行本体にのみ置かれ、持株会社およびグループ会社に専門部署は存在しません。これも将来的には、グループ横断でシステムを統括するような体制になっていくのではないか、と想定されます。システムの重要度はさらに増していくでしょう。
以前から伊予銀行はシステム活用に積極的だった。
地銀としては珍しく、先進的にシステムを事業の中に取り入れてきた歴史が伊予銀行にはあります。2015年、「銀行がクラウドを使うなんて想像もできない」と業界で言われていた頃、当行はクラウド利用のルール作りに着手しています。
きっかけは、金融機関のシステムの安全対策基準の策定等を行うFISC(金融情報システムセンター)が出した指針ですが、業界ではクラウド利用に消極的な意見が主流でした。しかし当行は「他業界ではクラウドを当たり前のように使っているのに、金融業界だけ準備しないのはおかしい」と考え、業界の主流に与せず、クラウドの準備を行いました。
その後、メガバンクなどがクラウド利用の動きを始めたのを見て、私たちの選択は間違っていなかったと感じています。今では相当数のシステムがクラウド上で動いているのを見るにつけ、あの時動き出しておいてよかったと思います。
当行がシステムへの取り組みに積極的だったのは、「旧来モデルに固執していては銀行業務が成り立たなくなる」という危機意識があったからです。1990年代に金融の自由化が始まり、金融と保険・証券の垣根が希薄になっていきました。私は伊予銀行に入行し、長く営業店で法人のお客さまを担当していましたが、金融機関の商品が似通ってくるのを見て、やがて垣根がなくなるだろうと実感していました。
大きな時代の変化の中、地銀ならではのサービスを実現するため重要なことは何か。それがシステム化による、業務の効率向上です。簡単な手続きを行うのにも来店を求め、何でも書類に手書きしてもらい押印させるのでは、お客さまの負荷は軽減しません。
地域のお客さまが抱える、より難解で複雑な課題に向き合うためにも、システム化による経営資源の効率的な配分が欠かせません。当行がいち早くシステム化に動いたのは、地域に頼られる存在でなければならないという強い意思があったからです。
自前で構築したシステムなので、サービスがすぐ実現できる。
現在、伊予銀行の窓口に行くと、タブレットに必要項目を入力し、選択するだけで大半の手続きが完了します。タブレットと勘定系システムとのデータ連携ができており、お客さまの手間も当行事務も省くことができ、短時間でサービスが完結します。
タブレットによる窓口システムは当行がシステム会社と協働し、オリジナルで開発したものです。自分たちで作っているので、新たな機能もすぐに付加できますし、「こうした方が使いやすい」という意見を素早く取り入れ、カスタマイズも可能です。
他行でも同様のシステムを入れているところはありますが、イチからオリジナルで作るのは珍しいようです。当行はオリジナルの強みを活かし、入力スタイルをチャット形式にするなど、新しい試みをどんどん取り入れ、使い勝手の良いものにしています。当行のシステムは外部からも評価されていて、他の金融機関に採用いただいたこともあります。
以前は、金融機関の勘定系を共同化システムで運用しようという流れがありました。イチから作るのは手間もコストもかかるし、地銀の場合、メガバンクほど経営資源が豊富なわけでもありません。その流れに乗って、自行のシステム部門を縮小させた金融機関もあります。伊予銀行のように、自前でシステムを作るのは少数派になったのです。
今は流れが変わり、どの金融機関もシステムの内製化に取り組んでいます。銀行業務におけるシステムの比重が大きくなったため、「共同化ではやはり自行のやりたいサービスがうまく実現できない」と多くの金融機関が気づいたのだと思います。
そんな中、システムの内製化にこだわってやってきたことが、伊予銀行の大きな強みになっています。自分たちで考えたサービスをリリースしたいタイミングで実行できるのは、それに伴うシステムを自前で用意できるからです。
今はアプリをもっと進化させようとしているところです。預金残高・入出金明細の照会はもちろんのこと、個人のお客さまが必要とする手続きのほとんどがアプリで完結できるようになるでしょう。これは他行に先駆けて、というわけではないですが、当行らしい、使い勝手の良さを追求したものにしたいと考えています。
DHDモデルの深化・進化(しんか)のため、デジタルに強い人財が不可欠。
DHDモデル推進のため、この2年でシステム部門の人員を1.3倍に増強しました。DHDのさらなる深化・進化(しんか)をにらんだ時、システムに関わる人財はもっと必要になるでしょう。
今後は、サイバーセキュリティの強化も重要です。クラウドやネットワークの知識は言うまでもありませんが、セキュリティに関する知識を持っている方は大歓迎です。
当行はかねてより積極的にキャリア採用人財を迎えてきました。システム部門でも多くのキャリア採用人財が活躍しています。金融業界の経験者はおらず、全て他業界からの転職です。他業界からの転職でも、システムに関するスキルは十分転用できます。
重要なのは「コミュニケーション能力」でしょうか。当行のシステム部門での仕事は、いわゆる社内SEです。システムベンダーやIT企業でエンジニアとして経験を積んだ方からすると、最初は多少の違和感があるかもしれません。
システムを実際に使う各部の担当者がどのような機能を望んでいるのか、その先にいる個人・法人のお客さまにどんなサービスを提供したいと考えているのか、コミュニケーションを通して知ることが、仕事の第一歩になりますから。銀行特有の業務の流れに馴染むためにも、周囲とのコミュニケーションは欠かせません。
そして何より、新たな領域にチャレンジする意欲があり、努力を惜しまない姿勢が大事です。銀行にはいろんな業務があります。それらがどう連携しているのか知らなければ、使い勝手の良いシステムは構築できません。お客さまや銀行業務を知り、その要望を実現しようと努力できる人は、どんどん成長できます。新しい試みにも柔軟に取り組む銀行なので、意欲の発揮しがいがあるのではないでしょうか。
メガバンクと地銀の最大の違いは、故郷を持っているかどうか、です。伊予銀行には愛媛という故郷があり、「瀬戸内海を中心とする地元に根を下ろすのだ」という自覚を持って事業を展開しています。この地域のために活動し、そこに生まれた信頼が我々の最大の強みとなります。この地域の発展を想い貢献したい。そう思える仲間と一緒に仕事ができることを願っています。