愛媛発イオンビーム技術が、世界の半導体製造を支え、新領域を拓く。
住友重機械イオンテクノロジー株式会社
代表取締役社長 月原 光国
愛媛県出身。1987年、大阪大学大学院工学研究科を修了後、住友重機械工業に入社。同社量子機器事業部(当時)を経て、1991年、住友重機械イオンテクノロジー株式会社の前身となる住友イートンノバ株式会社へ出向。開発部にて機械設計者として、ビームライン設計、全体レイアウト設計などを担当し、その後、高エネルギープロジェクトマネージャー、高電流プロジェクトマネージャー、開発部長、企画管理部長等を経て、2020年、代表取締役社長に就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
半導体という「現代の産業基盤」を、「顧客第一」の姿勢で支える。
「半導体」が現代の産業の基盤であることは、多くの人が知っていることと思います。IT機器や家電は言うに及ばず、自動車や産業機械など、数多くの産業で使われ、半導体不足が生産を左右するほどです。
そんな半導体の製造において重要な工程の一つに、シリコンウエハーにイオンを打ち込んで素子の電気特性を作り込む「イオン注入」があります。当社は、そのプロセスに必要となるイオン注入装置を設計・製造し、半導体メーカーに提供している会社です。
半導体製造は世界各国で行われ、メーカー数は多いですが、大手の寡占化も進んでいます。技術の進化が早く、開発にかかる負荷が大きいため、体力があるメーカーでなければ競争に生き残れないからです。
また微細化・高度化を求める半導体デバイスの「主流」は年々変化し、それに伴って顧客ニーズも変わります。2~3年で商品の様相がガラッと変わってしまうことも珍しくないほどです。最先端の半導体を製造するため、半導体メーカーが当社のような装置メーカーに要求する装置性能もどんどん上がります。お客様の提示するハードルを、より高い次元で超える装置メーカーでなければ、期待には応えられません。業界の数年先を見通すのはお客様である半導体メーカーでさえ難しく、容易なことではありません。
お客様に寄り添い、お客様と同じ目線で技術開発を続けていく。そこに私たち装置メーカーの存在意義があると考えています。「顧客第一」の姿勢を貫くことが、この市場で評価されるための必要条件なのです。
イオン注入装置を造れる会社は、世界に数社しかない。
イオン注入装置を造れる会社は多くなく、当社の競合は世界に数社しかありません。半導体製造はアメリカ・韓国・台湾など海外メーカーが圧倒的シェアとなっていますが、それを作る製造装置においては、日本がまだ存在感を保っています。
イオン注入装置には、高エネルギー・中電流・高電流という3つのタイプがあります。イオン注入プロセスにおいて、どの程度の量を、どれくらいのエネルギーで行うか、というレシピによって使用タイプが変わってきます。車で例えると、高エネルギー装置はスポーツカーです。スピード(エネルギー)は大きいが、荷物の積載量(イオン注入量)は少ない。中電流はセダンですね。スピードもまあまあ出るし、積載量もほどほど。高電流はトラックです。スピードはあまり出ないが、積載量は大きい。お客様はそれぞれのレシピに応じて、この3タイプを使い分けているのがスタンダードなやり方です。
そこに当社は「オールインワン型」という、新たなカテゴリーの装置を他に先駆けて投入しました。車で例えるとSUVです。乗用車のような使い方もできるが、荷物もかなり載せられるというもの。セダン(中電流)とトラック(高電流)を兼用できるため、効率性重視の中堅半導体メーカーを中心に高い評価を頂けました。業界に新たな価値を提示できたのは、大きな収穫と感じています。
半導体市場の需要は堅調。しかしそれに追随するだけでは進歩がない。
2022年内の完成予定で新工場も建設中です。半導体需要は今後も年数%程度で伸びていくと予想されているので、イオン注入装置も増えるでしょう。そのため、増産体制を整えておく必要があります。
しかし私は「市場が伸びるから当社の売上も伸びるだろう」という状況を、全く楽観視していません。例えば当社売上が前年比5%伸びたと言っても、半導体市場全体の伸びが同じなら、当社は少しも前進していないことになります。その間、ガリバー企業がシェアを伸ばせば、当社はむしろジリ貧に追い込まれます。そうならないようにするには、競合よりも1歩か2歩、大きめの成長を見込む必要があるのです。また、この市場でもアジアメーカーのコピー品が登場し始めています。今はアドバンテージを保っていても、いつ逆転されるとも分かりません。
イオン注入技術を別の分野に転用する模索も始めました。半導体製造にとどまらず、イオンビームという当社のコア・コンピタンスを活かす分野がないか、常にアンテナを張っています。新規事業に特化した専門の企画チームを組織し、見込みのある領域があればフィジビリを行って可能性を検証する。そうした種まきを続けているところです。
何らかの技術分野に携わった人なら、活躍のチャンスがある。
技術進化の早い分野で、お客様の要望に高い次元で応えるために。激しいグローバル競争の中、アジアメーカーの追随を許さず、ガリバー企業の圧力を跳ね返し、地歩を確立するために。そして新たな分野を切り開くために欠かせないのは、有能で意欲の高い中途人財です。実際、当社の従業員のうち、約5割強がキャリア採用。管理職となると、約6割弱が転職者です。当社の定常的な仕事は、転職者によってなされていると言っても過言ではありません。
キャリア採用と言っても「半導体製造装置に詳しい人」は、ほとんどいません。そもそもイオン注入装置は、理工系大学のほぼ全学科の知識がないと造れません。プラズマ物理・応用物理系、材料系や電磁場。ウエハ注入段階ではロボットや超クリーンの知識も必要。さらにプロセス全体を精密に制御するソフトウェアも。各領域におけるスペシャリストが知恵と技術を巡らせ、連携を取りながら造り上げているのが、イオン注入装置なのです。これらの領域を全て経験した、という人はまずいません。
逆に言うなら、何かの技術分野に携わった人であれば、当社で活躍して頂ける可能性は充分にあるということです。大学なり前職なりで学んだ知識を活かせる分野から始め、応用範囲を広げてもらえばいい。技術系でなくとも、購買を担当していた、何らかのプロジェクトマネジメントをやっていた、マーケティングに携わったなどの経験があれば、当社で力を発揮できるチャンスがある。スペシャリストもゼネラリストも揃え、多様性のある組織にすることが肝要だと考えています。
「情と品格」で、従業員とその家族から「好かれる」会社でありたい。
どの会社にも「人格」のようなものを感じることはよくある話です。そしてその感じた人格には、好悪の感情も付随しています。私は、「好かれる」ということがとても大事だと考えています。お客様や取引先からは当然ですが、何より従業員から好かれなければなりません。当社の製品は、半導体という産業の基盤を生み出すのに欠かせないと自負していますが、とは言え表に大々的に出るものではない。家族にすら分かりやすく説明するのが難しい製品です。だからこそ「この会社が好き」という気持ちが、従業員のモチベーションに関わると感じています。
そのために大切にしているのが、「情と品格」です。情と言っても流されたり溺れたりする情ではなく、相手の誠意や真心に誠実に応えようとする情、人として当然感じるべき情という意味です。そのような情のない人を、好きになれる人はいないでしょう。恥ずべきところのない情に素直に従うことは、むしろ行動の質を高めるものと私は思っています。
また、例えば、強い相手にはおもねり、弱い相手には尊大になり、どこかに「隙あらば…」とずる賢く考え、さもしく振る舞うような人がいたら好きにはなれないですよね。それと同じで会社にも品格というものが重要じゃないかと思うのです。情をもって接し、品格をもって判断・行動する。双方を備えた人物は、周囲からリスペクトされます。会社もまたそういう存在でないといけない、と私は考えます。それでいて初めて、従業員は会社に誇りを感じられるのです。
Win-Winの「転職の成功」のため、「本音」を聞かせてほしい。
私は面接で「あなたが当社に対して本音で求めているものは何か?」を聞くようにしています。転職者当人が本音で求めるものを当社が与えられなければ、決して満足につながらないからです。
単純な話、「愛媛に戻りたい」という人の期待に、当社は応えられます。「給料が2倍欲しい」という本音には、応えられないかもしれません。能力や技術は、学歴・職歴などを見ればある程度推定できます。しかし腹の底の本音は、本人でないと分かりません。「面接の場で本音をさらけ出して大丈夫か?」と躊躇もあると思いますが、私は転職する方が本音で求めているものを当社が提供できるかどうか確認し、できそうになければ正直にそれをお伝えすべきだと思っているだけです。
会社が転職者の能力なり資質なりを見定めようとする以上、転職者も自分の期待するものを提供してくれる会社かどうか追求するのは、むしろ当然。企業と転職者は対等であり、双方にWin-Winがなければ「転職の成功」ではないのだから、飾る必要はありません。
転職者の多い当社なので、周囲に馴染んでいけるよう環境も整備しています。カフェのような休憩室を作って自然に話しやすい雰囲気を作ったのもその一つ。さらにSALTやDAISといった自己啓発型のプログラムを用意し、自分の部門以外の人々や社外の人々、あるいは地域社会と積極的に関わっていく活動なども奨励しています。
私は愛媛県の西条市に住みながら、世界を相手に仕事をしています。そういう仕事が愛媛でもできるという事実は、地域のためにも、「地元に戻って活躍したい」と考える四国出身者のためにも、とても重要だと思います。大都市圏ではなく、四国だからできることがある、と自信を持ってもらう。そのためにも私は、多くの仲間を集め、事業を発展させていきたいと思っています。