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食肉加工の未来に貢献する、日本一あきらめの悪いメーカー。

株式会社日本キャリア工業
代表取締役 三谷 卓

更新日:2023年11月08日

新卒で金融機関に就職。渉外担当として多くの地方企業を担当する。融資に関する商談を通じ、多くの経営者が奮闘する姿を見て、自分もいずれは企業経営に携わりたいと考えるようになった。2004年、株式会社日本キャリア工業の創業者で義父でもある仲野整代表(現会長)の勧めを受け、同社に入社。主に財務や経理を担当する。2013年、仲野代表よりバトンを受け継ぎ、代表取締役に就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

「耐久性100倍」の永久プナから歴史が始まった。

日本キャリア工業の創業は1970年。食肉加工に欠かせないプレートナイフの開発・製造から、事業がスタートしました。プレートもナイフも、機械で食肉をミンチに加工する際に使用される消耗部品で、業界では「プナ」と呼ばれています。

当時、食肉加工機はヨーロッパ製が主流で、プナも外国製が選ばれていました。プナは先端に超硬刃をロウ付けしたものですが、何度も使用していると刃が摩耗し、なくなってしまいます。こうなるとプナ本体ごと交換するしかありません。

当社の創業者は、この点に着目。何度使っても切れ味が衰えず、交換の必要もないプナは作れないかと考えたのです。試行錯誤の結果、まだ調達の難しかった焼き入れ可能なステンレスを活用し、耐久性を遥かに向上させたプナの開発にこぎつけたのです。

従来品と大きく異なるのは、刃先だけでなく、ボディ全体を本体と一体化したこと。そのため、刃先が摩耗しても切れ味を持続できます。「永久プナ」と名付けられたこの製品をお客様に紹介する時のキャッチフレーズは「値段は10倍、持ちは100倍」。まずは使ってもらおうと多くの食肉工場にサンプルを配り、評価が広まっていきました。そして、大ヒットとなったのです。

開発に10年かけた「薄切り肉の折りたたみ」機構。

当社の主力商品はスライス肉折畳み装置付食肉スライサー「ベンディングスライサーAtoZ」ですが、初めからスライサーを造ろうとして開発が始まったわけではありませんでした。既存の他社製スライサーに装着することを前提とした「付属品」として、スライス肉を折り畳んで整列させる装置「センターベンダー」を開発しましたが、この装置の性能を十分に発揮できるスライサーが当時は存在しなかったのです。

当時の既存スライサーは、冷凍肉でなければ上手く切り出せない仕様の製品ばかりで、「一定の厚みで安定してスライスできる」「肉を定位置に取り出せる」「肉が折り畳める柔らかさである」という条件を満たすスライサーがありませんでした。そんな実情から「センターベンダー」の性能を活かせるスライサーの開発を水面下で進めていたのです。

同じ頃、スーパーからは「解凍時のドリップの発生を避けたい」「温度管理の負担を減らしたい」といった理由から、生肉を扱えるスライサーを望む声が上がっていました。これを耳にして、スライサーメーカーとしては後発となる当社ですが、「生肉が切れるスライサー」「折り畳み装置を備えたスライサー」に市場参入の活路を見い出したのです。こうして、当社のスライサー開発への挑戦が本格的に幕を開けました。

着手から10年。「実現は難しい」と他社が次々に方向転換する中、当社は折りたたみ機構を備えた「ベンディングスライサーAtoZ」を開発。開発費用の工面に苦労し、一歩間違えれば会社が傾きかねないギリギリの段階でした。リリースは2002年。その良さが分かってもらってからは火が付き、製品が次々に売れ始めました。

ベンディングスライサーAtoZはいくつもの特許に守られた、独特のノウハウが必要な製品です。また、精密な機能を維持するため、メンテナンスが欠かせません。そのせいもあって、追随する競合は出てきませんでした。

当社の規模で、成果も出せないまま10年も開発を続けることは、正気の沙汰ではないと感じる人もいたでしょう。しかし、誰もやっていない分野に目をつけ、成果が出るまであきらめずにチャレンジし続けたからこそ、永久プナを、そしてAtoZを実現できたのです。これはもう、当社のDNAです。私たちは「日本一あきらめの悪い」メーカーであることに、誇りを持っています。

リスクを取って、プロセスセンターの未来を担う。

創業50周年を迎えた2020年、社内でプロジェクトを立ち上げ、中期経営計画を策定しました。社史を編纂し、自分たちの強み・弱みや未来の方向性について、一般社員も交えながら検討したのです。そこで考えたのが、流通業界における食肉加工の工程、すなわちプロセスセンターはどうなるか、ということです。

プロセスセンターが限りなく無人化に進むのは、まず間違いないでしょう。センターを遠隔監視し、工程で起こるあらゆるデータが蓄積され、故障・点検に対する予知ができるようになる。工場で働く人員は最小限で、負荷のかかる業務の大半を機械が代行してくれるようになる。データの蓄積と分析によって柔軟な運用が可能となった無人のプロセスセンターは、コスト発生要因ではなく、むしろ利益を生み出すプロフィットセンターに生まれ変わっているかもしれません。

そのような未来をイメージした時、当社はどうすべきか。一つはっきりしているのは、リスクを取らないと成長できない、ということです。工場の人員を半分にできるような機械をどう作れば良いのか。IoTやAIなどのテクノロジーを、プロセスセンターにどう活用すればいいのか。どれも簡単ではないテーマですが、リスク覚悟で踏み込まなければ、成果は生まれません。

また、プロセスセンターは国内だけではありません。海外の流通業界にもプロセスセンターはあり、同様の課題を持っています。海外市場に参入できれば、当社はさらにレベルアップするでしょう。しかし、日本とは食文化の違う国で技術を認めてもらうには、勇気を持ったチャレンジが不可欠です。

既に新たな動きの生まれた分野もあります。乳製品関係で、原料ブロックを砕くなどのプロセスに活用できる機器の開発や、検査機器、盛り付けロボットのリリースなどもスタートしました。未来のプロセスセンターを実現するため、着実に歩んでいこうと思います。

チャレンジ精神に共感するキャリア採用組が多い。

誰もやっていないところに目をつけ、チャレンジするというDNAをもつ当社では、多くのキャリア採用組が活躍しています。この会社に転職してきた一番の理由に「チャレンジ精神」を挙げる社員も少なくありません。当社では、社員の出したアイデアを頭ごなしに否定はしません。難しそうな課題にも取り組んでみようという気概を持っています。その点に面白みを感じる転職者が多いようです。

外からやって来たキャリア採用組だからこそ持っている、社内とは違う発想が当社を刺激し、チャレンジを促進するということもあります。例えば製品開発を行う際、一部を外注に委託する場合があります。とはいえ、外注のやる業務を全く知らないと、そのプロセスだけブラックボックス化してしまいます。ここで、その分野の知識や経験を持つキャリア採用組がいると、外注に依頼する内容をしっかり吟味する役目を果たしてくれるわけです。

Iターンでやって来た方も結構います。他メーカーで技術を蓄積したベテランが、当社の姿勢を意気に感じて来てくれる、というケースがあるのです。高い専門性を持ちながら、それをひけらかすのではなく社員たちと協働しようと努める、人柄も魅力的なキャリア組の存在は事業推進の上で大きな力になっています。

力を発揮してもらうためのポストは既に用意。

今後、自社開発を進めていく上で、専門知識を持つ人はますます必要になります。例えば、ロボット制御、工場における検査工程、食品衛生、あるいはIoT、AI、DXといったデジタル分野の知識などです。プロセスセンターが完全無人化に向かう中、全体をトータルで見据えたエンジニアリングやコンサルティングも、今後は重要になるでしょう。

当社の組織図を見ると、かなり多岐に分かれています。実を言うと、そこまで組織が大きいというわけではなく、兼務してもらうケースも少なくありません。それでも身の丈以上の組織図を作ったのは、未来にありたい姿から逆算してのことです。今はまだ席が埋まっていない部門でも、いずれ主力となる製品を育て、十分な人員を配置していきたい。その意思を表明しておきたかったのです。

そうした意味では、当社に関心を寄せていただく方が活躍する場所を、私たちは既に設けているということを表明しているわけです。永久プナや、ベンディングスライサーAtoZに負けない次の柱を、一緒に生み出しましょう。

編集後記

チーフコンサルタント
松本 俊介

松山市では数少ない完成品(食品加工機械)メーカーである日本キャリア工業社にインタビューの機会をいただきました。顧客ニーズはありながらも競合を含むどの企業も実現が難しいとされた技術に10年かけた開発プロセスを知り、諦めずに成果が出るまでチャレンジした覚悟と執念を感じました。

2020年には新工場が完成し、永久プナやベンディングスライサーAtoZという主力商品だけでなく、別分野への展開や完全自動化に向けた取り組みも始まっています。2024年には新社屋となり、常に新しい価値の創造を目指して挑戦し続ける同社のさらなる飛躍に注目しています。

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