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ミドリムシ由来のナノファイバーで脱炭素社会の実現に貢献。

株式会社ユーグリード
代表取締役 宇髙 尊己

更新日:2023年2月08日

1955年生まれ。関西学院大学を卒業後、日東電工(株)に入社。電子材料・機能性材料の営業を担当する。6年働いた後にUターンし、泉製紙(株)に戻って社業を継ぐ(現:専務取締役)。その一方、自身が代表取締役を務める高齢者雇用のスバル(株)で、新規事業としてユーグレナの研究開発を開始。2021年10月に事業部を独立させる形で(株)ユーグリードを設立、代表取締役に就任。愛媛県四国中央市出身。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

ユーグレナ精製物を、プラスチック代替素材やバイオ燃料に活用。

ユーグリードが展開するのは、原生動物ミドリムシ(ユーグレナ)など微生物の力を基盤としたバイオ事業です。ユーグレナ由来のパラミロンナノファイバー(PNF)は、様々な分野で注目を集めています。

例えば、先端材料としての活用です。強度は鉄の5倍で重さは5分の1という、植物由来のセルロースナノファイバー(CNF)と同等の性能を持つ上に、PNFは不純物がなく生産性が高いため、様々な工業製品に転用可能なのです。特に有望視されるのが、プラスチック代替の分野です。プラスチック製造過程で排出されるCO2を大幅削減できるので、脱炭素社会に最適の素材となるでしょう。

バイオ燃料としても有用です。実現すれば、安定的で再生可能な電力供給とCO2削減を、同時に解決します。他に、化粧品・ヘルスケア分野にも展開できます。ユーグレナは植物と動物の両方に必要な栄養素を含んでいるため、栄養補助食品、家畜用飼料、水産養殖飼料など様々な広がりが期待できます。

事業の本格スタートは2020年の1月からですが、脱炭素、SDGs・ESGに関する投資が活発化する流れもあり、多くのCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)をはじめとする投資機関から将来性を評価していただきました。それだけ当社の方向性と、時代の動き、社会の要請がリンクしているのだと実感します。

ユーグレナの持つナノ繊維の可能性に着目。

私の出自は、製紙業を営む泉製紙(株)です。併せて当地で盛んな紙加工会社のひとつであるスバル(株)も運営しております。製紙業界では従来型の紙のビジネスから新たな道を探そうと、各社が努力しています。その第一候補が、セルロースナノファイバー(CNF)で、製紙各社は約20年前から取り組んできました。

しかしCNFは非常に高度で繊細な技術であり、研究には高額の投資が必要ですが、いまだに社会実装に至っていません。泉製紙もかつて研究には着手したものの、自分たちに合った道ではないと結論づけました。

その後、地域の支援団体から、製紙工程の排水処理槽でのユーグレナ培養の話があり検討しました。結局、排水処理槽方式での培養は適切ではなかったのですが、ユーグレナという素材に興味を覚えました。ちょうど、ユーグレナを基にした食品やサプリメント、燃料を提供する会社が上場した頃でもあり、引き続きユーグレナの可能性を探ろうと考えたのです。

そんな折、「ユーグレナの中には機能材・構造材として活用が期待できるナノ繊維が大量に含まれている」という話を研究者から聞きました。この繊維質を紙材料に使えば、脱炭素や廃棄物・工業排水といった製紙業の抱える問題の大半を解決できる、と気づいたのです。

さらに調べるうち、ユーグレナ培養の第一人者である宮崎大学の林教授と知り合うことができました。林教授の話を伺い、木質由来のCNFと比較しても品質が高いナノファイバーがユーグレナから採れる、という確証を持ちました。それから事業化へ着手したのです。

微生物を、トンのスケールで大量培養する技術を確立。

製紙業界において、原料の使用量は数千トン、あるいは数万トンのスケールに及びます。しかし林教授は既に、35年に及ぶ研究によって従来の約10倍の速度で培養できる育種株にたどりついていました。この速度でユーグレナを培養できれば、社会に必要なナノファイバーを供給できます。そこで私たちは、育種株を「ハイパーユーグレナ」と名付けて商標登録。培養実験を繰り返しました。

通常、微生物培養は10~20リットルというスケールで行います。それをトンの単位で行うのは、実情に詳しい者から言わせるとクレイジーな行為です。5トンタンクだと高さ2mにもなるため、タンクの上部と下部では水圧も随分違ってきます。微生物であるユーグレナを、タンクの中で均一に生育させなければなりませんが、最適にコントロールするのは容易ではありません。

私も研究にあたり、トンのスケール問題をクリアするのに5年はかかるだろう、と見ていました。しかし、研究スタッフは1年で成果を出してくれたのです。おかげで、2年目に工場を立てることができました。林教授も「わずか2年で工場までこぎつけるのは、あり得ないスピードだ」と目を丸くしていました。

高効率培養は林教授が35年をかけて形にしたものです。私たちはそのノウハウを応用し、トンのスケールで大量培養する手法を生み出しました。これらの知財はオンリーワンであり、おいそれと真似のできる技術ではありません。タンクを撹拌するプロペラひとつとっても、独自のノウハウがあるのです。

当社では既に5トンをクリアし、100トン単位で培養する計画を立てています。数年で年間1000トン供給の体制構築を目指します。そうやって培養したハイパーユーグレナから採取するPNFを電子材料やプラスチック素材など、いろんな分野で展開していきます。

エイジフリーの環境から、最先端素材PNF実用化が可能となった。

ユーグレナ事業は、市内の製紙会社6社が設立した紙加工会社のスバル(株)の一部門としてスタートしました。

スバルは本来、高齢者雇用を目的に作った会社です。60歳の定年を過ぎ、同じ職場で再雇用されるのが一般的になっていますが、こうした働き方は様々な面で問題を抱えているように思えます。

一番の懸念は、従業員本人のモチベーションです。前職の場所でモチベーションと給与を下げながら働くより、新しい場所で新しい事業に取り組む方がいい、と考える高齢者は少なくありません。

そこで、高齢者雇用の受け皿となっているスバルで、定年延長とか再雇用とか関係なく、エイジフリーで新事業に取り組んでもらおうと考えユーグレナ事業を持ってきました。2020年1月のことです。

最初は少人数でのスタートでしたが、徐々に仲間が集ってきました。中には大学で教鞭をとっていた70代の方もいて、年齢関係なくみんなが情熱をもってこの事業を推進しようとする方々ばかりです。そのおかげで研究スピードは大幅に加速できたのです。

2021年10月に、スバルから事業部を独立させる形でユーグリードを設立。現在では全国各地から10数名の仲間が集まってくれました。学位取得者や有名企業からの転職者もいます。年齢は25歳~71歳までと幅広く、まさにエイジフリーの職場です。定年という考え方もなく、みんな好きなだけ、自分の仕事や研究に没頭しています。

多くの研究者・技術者がエイジフリーで、PNFという最先端の機能性材料の開発に関わっている。それが当社の特徴であり強みにもなっていて、この環境を大切にしたいと考えています。

PNFをコアとして、地域と社会に良い影響を与えたい。

研究が想定以上のスピードで進んだおかげで、大量培養の体制は整ってきました。しかし事業を本格的に推進するには、スピード感を持って資金の調達と組織の構築を実現しなければなりません。特に、重要なのが人材です。

現在の当社は研究者を中心としており、今後も研究者および技術者を中心に採用の必要性がありますが、その先のさらなる成長を考えると、営業企画やマネジメント、経営企画、経理財務などの営業およびコーポレート関連職種の採用にも力をいれていく必要があります。

最近開催された展示会に出展した際、当社ブースに足を運ぶ企業関係者が殺到し、時代の要請を受けていることを改めて実感しました。事業の可能性はもちろんですが、エイジフリーの環境で新しいことにチャレンジする、という姿勢を含めて共感いただける方とこれからの会社を一緒に創りあげていきたいと考えています。

当社が本社を置く四国中央市は、紙の町として発展してきました。しかし当社のPNFは、紙の町という地域のあり方を、大きく変えるかもしれません。多くの方に出会い、考えに共鳴してくれる方とともに、ビジネスを推進していきたいですね。そして地域に、社会に良い影響を与えたいと思います。

編集後記

チーフコンサルタント
松本 俊介

ユーグリード社は脱炭素社会の扉を開く大きな可能性を持つ企業です。テーマは原生生物ユーグレナ(ミドリムシ)。研究開発を通じてこれまで難しいとされていた大量培養を可能にし、プラスチックなどに代わる素材や先端素材ナノファイバーの生産を行っています。

今回の取材を通じて地域・世界を変える可能性をさらに感じました。今後の展開にますます注目していきたいです。

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